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2008/07/23 08:51
この作品は、濃厚で猥雑で可笑しくてシニカルで強烈だ。

初回から作者がビシビシと剛速球を投げ込んでくる展開に,バッターボックスに立っているものは呆然と見送りキャッチャーミットにおさまる乾いた大きな音を聞くだけだ。ときとして、その剛速球がピンボールまがいに向かってくる錯覚を覚えるので、一瞬それらが荒唐無稽に映ってしまうかもしれない。しかし、心配召されるな。物語はまったくぶれることなく、作者はぼくたちの首根っこを押さえまま最後まで連れていく。
この作品は実際にあったこの事件を題材にし、インスパイアされて書き始めたということだが、作者の底知れぬパワーをもってなんとも突き抜けた世界が誕生した。物語を帯から引用してみよう・・・・・32人が流れ着いた太平洋の涯の島に、女は清子ひとりだけ。いつまで待っても、無人島に助けの船は来ず、いつしか皆は島をトウキョウ島と呼ぶようになる。果たして、ここは地獄か、楽園か? いつか脱出できるのか・・・・
まず、ネーミングに笑ってしまう。自分たちが漂流したどり着いた島を「東京島」と名づけ、島の一帯にもそれぞれ、ジュク、シブヤ、コウキョと東京の一部の名前をつけているのだけれど、そのなかで数本の“ドラム缶”がある場所を「トーカイムラ」。謎の死を遂げていった崖を「サイナラ岬」。登場人物もまた然り。、「オラガオラガのガを捨てて・・」が口癖だった男をオラガ、漂流したときのショックで記憶喪失になり、持ち物にGMのイニシャルが入っていたのでGM、元暴走族がアタマなどなど、なんともひとを食っている。
最初に漂流した夫婦のひとりである清子を軸に物語りは進展していくのだが、無人島を脱出できない絶望感が全員の体力も精神を確実に狂わせていく過程の中で、サバイバル感に溢れた清子が圧倒的な存在感を示す。しかしながら、のちに清子の四番目(!)の夫なるGMや、壊れかけたメガネ同様自身も静かに発狂していくオラガ、島に捨てられてきた中国人たち(通称ホンコン)・・・と登場するキャラクターも秀逸。そのなかでも、際立っているのは、島の嫌われ者で先に書いた「トーカイムラ」に追いやられてしまったワタナベだ。彼に対する作者の描きっぷりは、かの新堂冬樹の初期作品もかくやというほどの強烈なインパクトを残す。きっと、桐野さんはこのワタナベを書くときは愉しんでいたに違いない。それほど、このワタナベのキャラはユニークで面白い。清子はそんなワタナベを心底嫌っているのだが、果たしてこの二人はコインの表と裏ではないのだろうか。死んだ清子の最初の夫の日記を、ワタナベが盗み読むシーンや(ファーストフードへの思いを綿々と綴る箇所はなんとも異様な面白さ)、突如として清子のワンピースを纏ってオ○マと変貌し、清子に悪態をつきつつも、GMに“シナ”をつくる素振りには思わず声をあげて笑ってしまった。そして、気がつけばぼくたちは作者の繰り出す玉に翻弄されて、試合終了のサイレンが耳もとで鳴っているのに気づくのだった。
無人島という極限状態の舞台(事件)を題材に、見事なエンターテイメントに消化させた力にはただただ脱帽の、この夏超オススメの一冊です。
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